兼山廟
住 所:高知県長岡郡本山町本山
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近隣施設:早明浦ダム、
撮影日:2017年2月1日
帰全山の由来
土佐嶺北地方の中核、本山町の中央に位置するこの付近を対岸から観ると、雁が翼を拡げて南方に飛ぶ姿にみえるので「雁山」と呼ばれ、帰全山はその頭首の部分にあたる。
この地、古来より聖地として崇められ、古代末に別宮山十二ヶ所権現社が鎮座、中世に遷宮したが「別宮」と称されていた。
慶安四年(1651)四月、領主野中兼山が母堂秋田氏夫人の遺体を此処に儒葬(文公家礼)で埋葬のとき、山号の撰を山崎闇斎に依頼、「記日父母全而帰之」により「帰全山」と命名した。その『帰全山記』の一節に
(帰全山の)北方は(白髪山に)連なり、
西南東の(三方は吉野川の)川水周流す。
土色潤沢にて草木盛んに茂る。
不可為道路、不可為溝池、不可為城郭。
貴勢の奪う所に非ず。耕翠の及ぼす所に
非ざるなり。
と、鴻儒山崎闇斎先生は記述されている。
野中家の断絶後もその先栄として有志者の祭祀が続いた。帰全山の林地は土佐藩の採伐禁止林となり自然が維持されていたが、明治維新後は個人所有の山林となっていた。
明治三十八年に本山村が買収、日露戦争記念帰全山公園として開園し、現在は県立白髪山公園の一部として県の指定を受けている。又、この公園は町内の篤志家によって自生石楠花を移植、「しゃくなげ公園」としても整備されている。
【昭和五十五年十二月十五日 本山町教育委員会】
野中兼山公 (1615~1663)
経済繁栄の神様。村おこしの元祖兼山公は江戸時代に土佐藩二十四万石を実質五十万石に倍増し、国中を豊かにした。
そのため農業、林業、漁業、水産業などの各分野に土木工学を駆使し、卓抜した抱負と見識で政治、経済、文化など諸般の社会政策に実効を上げた偉人。
兼山公没後、巷に声望あがり敬慕尊崇の念は抑え難く、国内いたる所で祠を造りお祭りが始まった。
【財団法人 兼山会】
野中兼山生母 解説 夫人秋田氏墓表(墓誌銘・山崎闇斎作)
夫人名は萬、姓は秋田氏、幼い時不幸にして孤児となった。性質明朗快活で、辛抱強く、縫識などの技に長じた。二十四歳の時、浪人中の兼山の父、野中良明の妻となった。節約を守って家計を整えた夫人は、厳格な良明によく使えた。良明のはじめの妻、荒尾氏は、子もなく若死にしたので、哀れに思い命日にはよく弔った。また長明の姑によく仕え、三年間の臥床にも変わりなく看病して人々を関心させた。
夫人が三十三歳の時、良明は病死した。親戚の再婚の勧めを断った夫人は、貞節を貫いたのであった。夫人は兼山のほかに男女各二人を生んだが、幼少の時死んだ。兼山を妊娠した時は飲食に注意して健康を保った。兼山の教育にはとくに注意し、公の秘密は妻にも語らなかったと良明の生前を兼山に話したが、兼山十五歳の時、良明の遺品を渡して父の意思を継ぐようにと激励した。また兼山の性急の気質を戒め、あるいは兼山が朋友を招待することを喜び、自分の持物を金に換えて準備を調えた。ある時、若者たちが争って刀傷に及んだと聞き、友人との交わりには特に注意し、父の名を汚してはならいと訓えた。
兼山が二十二歳で、分家、野中直継の家を継いで土佐藩家老となった時、夫人は藩の御用を大切にし、同僚とは親密に、欲心を持つことなく、終始一貫勤勉に執務するよう訓戒した。
また家庭の和合が一族繁栄に連なるとし、ことなく野中家に仕える人々は慈しむように望んだ。夫人はいつも控えめで、侍女を激しく𠮟ったこはなく、珍しい食物があれば必ず分け与え、また裁縫など喜んで教えてやった。いつも侍女たちに、怠けておいて急に物事をやってもうまくはできない。平素が大事である。また人に注意することは、まず自分自身が行うことである
口先だけでは人はけっして従うものではないと戒めた。
夫人は姑の教えで仏教を信じたが兼山が儒学を勧めた時、自分の子は兼山だけである。この意見に従おうと、儒学を敬信した。全く夫人は女性の模範である柯(山崎闇斎)が兼山と親しい朋友であった当時、夫人の部屋には「直信」額があった。その人柄はこの通りである。
夫人は天正十四年丙戌(1586)九月二十七日京都に生まれ、慶安四年辛卯(1651)四月土佐の城下に没した。同年六月五日、城の東北七里兼山の所領長岡郡本山に葬られた。行年六十六歳、兼山は泣いて柯に夫人の墓表を書くように依頼した。文章も拙いが葬式の日も迫ったので、かねて聞いた夫人の生涯の大要を石に刻み、末尾の「銘」は、心ばえは従順で、婦徳を修め、柔和で正しく妻の道を守った。子を立派に育て上げ、無欲に身を処し、人には親切であり、事を処理しては行き届いた。人の生死はすべて天命である。土は肥え樹木の茂る本山の帰全山に、安らかに永眠されたい。悲しみを迎え、このような素晴らしい生涯を、後世に伝えるものである。
【本山町教育委員会 郷土史家 横川末吉】
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